いつも手塚治虫とその作品を愛していただき心から感謝いたします。
今からほど遠い七〇年代半ばの頃、ある出版社から漫画を文庫で発刊したい、手塚作品も是非と話がまいりましたが、手塚は「私のその作品は、B5版の週刊誌用に描いたものです。文庫本のサイズでは絶対ダメです」とお断りいたしました。ましてや当時の印刷や紙では細かい線の絵は見えなくなるし、コマ割りも効果的でなくなると思ったのでしょうか。でも長いおつき合いの出版社から、何度も依頼されると、「これならいいですよ」と、大人漫画で簡潔な線で描かれたナンセンス漫画をしぶしぶ了解してくれました。
今では文庫本でもとてもきれいに原稿通りに仕上がって多く出版されていますが……
手塚は一九八九年二月九日に六十才という若さでこの世を去りました。
ご存じの方もおられるかと思いますが、手塚はこれから社会を背負う子どもたちを「未来人」と呼び、とても大切に思っておりました。自分が体験した戦争の悲惨さ、平和のありがたさ、命(人間のみならずあらゆる生物、地球だって生きている)の尊さを子どもたちに伝える為、必死になってその思いを込めて作品を創り続けました。
現在のようなパソコンもスマートフォンも普及していない時代でした。今、手塚治虫がこの現状をみた時、これらの媒体を使い漫画・アニメでどんな表現方法を考え、作品を創るか想像するとちょっとわくわくします。
テレビも紙媒体も若干右肩下がりになる中、今を生きている私たちはやはり紙文化の良さ、テレビの文化貢献もしっかり考えていかなければならない、と同時に現況の環境も認識して、「未来人」になにを示せるかつねに真剣に考えていきたいと思います。
手塚プロダクションはこれからも手塚作品を沢山の人に読みそして観てもらうよう努力するとともに、手塚が終生訴えてきた「命の尊厳」を広く世界の子どもたちに伝えていきたいと考えております。
代表取締役 松谷孝征